「お前さぁ、捕る気あんの?」
呆れ果てた表情でゆっくりと歩いて来る元希は帽子を被り直して、その場に立ち止まる。
「・・・・・・・ありますよ」
ミットが弾いたボールの後を追う隆也は、元希のその言葉に少なからず不快感を覚えたが、こんなのはいつものことだ。
「今日はてんで捕れねーじゃん」
「・・・・・・・・・」
そう、今日はいつもにも増して元希の投球に反応できていない。
「あぁ―――」
元希は何か思い出したように目を細め、ニヤリと笑った。
「昨日は激しかったからなぁ」
昨日、元希はいつもにも増してきげんが良かった。
「タカヤ。お前今日は結構捕れたな」
普段、人を褒めるということをしない元希には珍しい
こぶしで肩を軽く押す元希の笑顔につられるように口の端を上げかけた隆也だったが、僅かに顔をゆがませた。
「て・・・・・・」
「あ?なんだ、そんな大げさな・・・」
「大げさじゃないですよ」
そう言って元希をニラむと、着替え途中のアンダーシャツを脱いで、肩の痣を見せる。
「うわぁ、なにコレ」
「なにコレって誰がやったと思ってんですか」
「え、ナニ。オレ?」
本当に分かっていないのか、元希は目を丸くして自分を指さした。
「へぇ。こんなんなってんだな」
珍しいものでも見るような目で隆也の体中の痣を見る元希だが
「元希さんが投げた球ですよ」
自分が張本人である。
「でもお前、なんでもないみたいにオレの前に座るからさ」
そう言う元希に詫びる様子はなく、再び顔には笑顔が戻っていた。
「投げやすいんだよな。腕がよく振れるっていうか」
「・・・・・・・・・」
投げやすいって・・・・・・。
オレ自分が捕ることしか考えてなかったけど、元希さんは投げやすいって思ってたんだ。
嫌々投げられるより良いかな。
以外と元希さんも捕手の態度とかそういうの気にするんだ。
「やっぱり昨日飲ませたのがキいたのか?」
隆也が元希の言葉に少し感慨にふけっている時に、元希はとんでもないことを言い出した。
「ちょっと元希さん、やめてください」
ここは更衣室で、周りには着替え中のチームメイト達もいるというのに、元希にまったく気にした様子はない。
「今日も飲むか?」
「飲みません」
飲む。というのは、まぁ元希のアレなわけで、誰も進んで飲みたくはない。
「ちょっと残ってけよ」
元希は隆也に選択権を与えない。
「嫌です」
それでも隆也に屈する気はない。
「じゃあ、いまここでするか?」
やっとあらわれた選択肢はその2つ。
誰もいなくなった更衣室か、今ここで、か
「そんな・・・!」
今ここでなんて、そんなの無理だ。
アンタだってそんなつもりないくせに。
「じゃぁまってろよ?」
「・・・・・・・・・」
ここで否定したら、今ここで何かされかねない。
それだけは避けなければ。
「分かってんじゃん。きのうよりはウマいな」
更衣室の長いすに座って後ろに手を付く元希の少し恍惚になってきた表情を隆也は見ようともしない。
「っ・・・・・・」
下手だと言われて喉の奥まで突かれるよりは、動かないでいてくれた方が、だいぶマシだ。
「オマエ好きだろ、フェラ」
上機嫌な元希がさらに硬度を増してくるのが分かる。
「・・・・・・っ」
本当はその横っ面をぶん殴ってやりたかったが、元希は調子に乗せとけばいいから、あえて否定しないで銜え続けた。
「ふぅん。―――、もういい」
その隆也の反応が気に入ったのか気にくわなかったのか、元希は少し考えて、口を離させると、隆也の胸倉を掴んで引き寄せた。
「脱げよ」
元希は引き寄せた隆也にそれだけ言って後ろに突き飛ばす。
「・・・・・・?」
今まで何回か元希のを銜えたことがあったが、こういう指示がきたのははじめてだった。
「・・・・・・早くしろよ」
まで理解できていない隆也に追い討ちをかけるが、隆也は動けないでいた。