友雅「そう、龍神の神子が明王を、そして四神を味方にしてまで、京を守らなければならない時、そこには何があると思う?」
永泉「怨霊・・・ でしょうか」
静かな声が静寂の中、波紋のように広がる。
泰明「確かに、四神の力があれば怨霊に対抗できる。師匠の屋敷でも、怨霊の増加と神子の出現は密接であるという資料を 見たことがある」
鷹通「四神は明王の力によって封印されていますから、明王の加護と四神の協力は同じものとみていいでしょう」
「だとするとぉ?」
神子は首をかしげて先を促しているが、眼が遠いところを見ているので、おそらく途中から話がわからなくなっているのだろう。
「目下は明王の加護を授かるという、今まで通りでいいのではないかということですね」
「私はそう思うよ。神子殿にも負担をかけなくて済むからね」
大人の余裕ともとれる笑みを浮かべた友雅の言動に、鷹通は違和感を覚えていた。
今まで自分と神子以外に友雅と接触した八葉はそうはいないだろう。
もし接触していたとしても、これだけの情報を彼に与えたとは考えにくい。
それに、今この場で一人しか知りえないことを、彼は知っているような口ぶりだった。
龍神の神子の出現と、京の危機、特に怨霊が関わっていることなど、この場では泰明しか知りえないことのはずだ
おそらく、これを知っていたからこその発言だろう。
「・・・・・・・・・」
協力していたのだ。彼なりに。
さすがは橘の名で左近衛府少将まで上り詰めた男だったということか。
頼りにならない男だと思っていたが、見くびっていたようだ。
桃源郷に輝く月を美しいと思うのは、行くことのできない場所にある、手の届かないものだからだ。
情熱。それと同じ。
私の持ち得ないもの。
なぜか心惹かれるもの。
だが、欲するものではない。
行くことのできない場所の、手の届かないものだから、それが美しいのだから。
・・・・・・・・・。
桃源郷に輝く月、情熱から見れば逆に私が―――。
それなら私は何に見えているのか、少し気になるね。