「今日一日で明王様の試練を終えるなんて、二人ともすごいです。友雅さんが来てくれてホント助かりました。ありがとうございました」
友雅が一日神子と共行動をにしたのは、今日が初めてだったのだが、彼女が友雅のことをどう思っているのかが分かった一日だった。
友雅にとっては、明王の試練よりもそちらの方が興味深かったと言っても過言ではない。
「いや、こんなことで良ければ、たまにはこちらに顔を出そう」
神子殿は、私が八葉の役目を心底嫌だから、今まで協力もせず顔も見せなかった。と思っているようだ。
まぁ、どう思われていようと構わないのだが、一応協力する気はあるのだよ。
京の命運を握っているなんて、面白い話ではあるからね。
「今日はいろいろありましたから、ゆっくりとお体を休めてください」
「ではね、神子殿」
いつまでも居座るなと言わんばかりの鷹通に、またしても急かされるように部屋を後にする。
そのまま屋敷を出ると、門を過ぎたところで鷹通に呼び止められた。
「友雅殿、少しお付き合いいただけますか」
友雅に直接、聞いておきたいことがあった。
「道中でよければね」
鷹通の切れ長の瞳のせいか、視線が交わると射貫かれたように感じるときがある。
威嚇しているのかな?
などと思うと笑いが込み上げてきて、笑ってはいけないと思うほどに口元が緩んでしまう。
「貴方の思っていることを教えて頂きたいのです」
鷹通は気付いていないのか、前を向いたまま話を続ける。
「いいよ」
「では、八葉の役目のことをどう思っておいでなのですか」
元々、友雅が乗り気でないことは分かっていたが、三月某日に八葉と神子が集まって以降、この男は土御門には一度も現れていない。
「どう、と言われてもねぇ。まぁ、面白そうだとは思っているよ」
「これは遊びではないのですよ。友雅殿」
鷹通は整った顔の目の下に深い皺を刻んで、友雅を見る。
「もっと気を入れていただかないと困ります。友雅殿には京を守る気はないのですか?」
鷹通は友雅に、京を守る気はあるし、協力しようとも思っている。と言わせたくて、敢えて否定形で問う。
「どうだろうね」
「・・・・・・・・・」
鷹通の思惑は破れて、友雅の考えていることが更に分からなくなる。
意味もなく相手を惑わせようとするお方ではないはずだから、何かお考えがあってのことだろうか。
「そうおっしゃると言うことは、鬼に荷担する。と受け取られかねませんが」
八葉の役目を避け、神子に協力しないということは、鬼に助力するということになる。
「さてね」
口ではどっちつかずな事を言ってはいるが、本質では鬼を押しているからこそこういう言い方なのだろうと鷹通は勘ぐった。
「京が鬼の手に落ちるということがどういうことを意味するのか、友雅殿は分かっておいでなのですか」
先刻友雅が面白そうだと言った言葉が、鷹通の頭の中を過ぎる。
面白いことなどありはしない、京を奪い合い争っているのだ。
友雅殿が争いを好まれる方だったとは、よもや思いもしなかったが。
「京が鬼の支配下に置かれるのだろうな。帝や院の座には鬼の首領が座り、京の人々は鬼の下僕と成り下がる」
それが意味するのは、京の崩壊。
「そこまで分かっていてなぜ・・・・・・」
そうなったらおそらく、今の貴方は今のように遊んで暮らすことは出来なくなるのですよ。
この男は何を考えているのか全く分からない。
現状を理解していて、予測まで立てられるのに、それを知ってなおも面白いなどと。
「何故鬼は、こんなにも京に固執するのだろうね」
鷹通の問いなど完全に無視した言動だ。
「・・・・・・・・・」
否、これが鷹通への返事なのだろうか。
「鬼は異形の力を使う。それなのに京の人々から迫害されて追い出されたのだろう?力を持っているのに、何故だろうね」
「・・・・・・?」
この方は何を言っているのか。
鬼が何を考えて京の支配を望むのか、力を持つ鬼がなぜ京外へ追いやられたのかなど、京を守るために必要なこととは思えない。
それよりも、怨霊の力を弱めるだけではなく、復活を阻止する封印ができるようになれば、京に満ちている穢れを根本から断ち切ることができる。
「そんなことより、友雅殿には龍神の神子がおこなえるという、封印の力のことを調べていただきたいのです」
一先ずは封印の力を優先すべきだ。
「おや、私でいいのかな」
意外そうに言う友雅の傍らでは鷹通が、この人に惑わされてはいけないと、一人心に強く思っていた。
「お願いします」
もう何も聞くまいと思った矢先、
「今までおざなりだったからね。私でよければ少しは協力させてもらうよ」
友雅から思いもよらない言葉を聞いた。
まさかはっきりと協力すると言われるとは思っていなかった鷹通は、一瞬口を開きかけるが、言葉もなく同じ歩調を繰り返した。