耳元でささやかれたその響きに不穏なものを感じた頼久は、身構えようとする。が、いつの間にかあちこち押さえられて、身動きがとれない。
「・・・・・・っ」
いくらこちらが武士といえど、土俵が違っては、力は発揮できない。しかも、夜の遊戯は友雅の十八番である。
「あぁ、そちら側になるのは初めてかな」
友雅はそんなことを聞いてくるが、そちら側も何も頼久にはどちらの経験も無い。
「いえ、あの・・・・・・」
というか、頼久にはここから友雅がどこへ持っていきたいのか分かりかねていた。
「抵抗は無しか。お前に殴られでもしたら、明日神子殿のところへはいけないと思っていたところなのだから。杞憂だったようだね」
「・・・・・・?」
殴らなければならない理由がありません。と思ったと同時に、私が友雅殿を殴りたくなるような状況なのか?これは。と考えてみる。
が、やはりよく分からない。
「無知、というのも頼久らしい」
友雅から見れば、誰も彼もが無知なのだろう。
「夜の奉公とでも言えば分かりやすいかな」
そこで頼久はある考えに至った。
「もしやそれは・・・・・・友雅殿の得意分野では?」
言いづらくて少し濁したが、おそらく伝わるだろう。
「今頃思い至るとは・・・・・・、やはり、とでも言おうか」
やや呆れ顔の友達は、頼久の胸の留め具を外し、今は刀のついていないベルトに手をかける。
「お言葉ですが、その・・・・・・、ソレは・・・・・・できないのではないかと」
言葉を濁す頼久のその科白に、友雅は一瞬だけ考える時間が必要だった。
「あぁ、・・・・・・フフフ、ソレは男と女の営みだから、我々にはできない、と?」
吹き出しそうな口元を押さえながら肩を振るわせる友雅を。頼久はそういうものでしょう?と、眉間に皺を寄せる。
「それが無知だというのだよ」
友雅の手がベルトを取り上げて、帯を慣れた手つきで解いていく。
「私には分かり兼ねるのですが」
頼久にはまだ危機感というものがないのか、帯を解かれている今でも焦る素振りは無い。
「男同士でも、まぁ女同士であってもそうだが、同姓であっても夜の営みの快感は味わえるということだよ」
友雅は頼久の胸の袷を掴んで開き、その厚い胸板を濡れた舌で舐め上げる。
「・・・・・・っ」
「私と・・・・・・頼久でもね」
甘い吐息で囁く友雅がここまでしても、頼久は抵抗をしてくる素振りは見せない。
「友雅・・・・・・殿、あの・・・・・・」
が、少なからず動揺はしているようだ。
「分からなくてもいいよ。今から私が教えてあげるから」
友雅は、首筋から胸に舌を這わせながら袴の前に手を添えると、頼久の体が力むのを感じた。
「―――」
「・・・・・・・・・」
ようやく理解してきたようだね。
胸の上では柔らかい舌が肌を濡らして、時折音を立てて軽く吸い、袴の上の手はその激しさとはうって変わってゆっくりと円を描く。
僅かな水音と、衣擦れの音がやけに大きく感じて、意識してしまう。
友雅の舌が胸の上の突起を絡めとった。
「・・・・・・っ」
ぴくりと反応を示した頼久は片手で口元を覆って、味わったことのない感覚を鎮める。
友雅の舌は離れていき、今のは何だったのだと考える頼久の鎖骨あたりを舐めると、再び戻ってきた。
「・・・・・・」
そして突起には触れずにまわりをくるりと舐めて離れる。と、思いきや突起の先端を舌先が掠めた。
「くっ・・・・・・」
それと同時に袴の上の手が中心を掴んだ。
胸の上では舌が突起を攻め立てて、袴の上の手は、下腹部の肌に直接触れる。
焦らすようにじっくりと降りていき、下穿きのうすい布一枚の上の爪先が僅かに触れながら、ゆっくりとその形をなぞっていく。
円を描いてなぞっていくと一周目と二周目と形が変わっていくのが分かる。
「っ・・・・・・」
頼久は、自由な片手で上目の友雅を振り払おうとはせず、ずっと顔を覆っていた。
友雅は、形がはっきりしてきた薄い布越しのそれを指で挟んで擦り上げる。
二本の指で挟んで親指で反り返った中心から先端までを刺激されて、頼久は喉を反らせた。
「くぅっ・・・・・・!」
頼久と同時に床も鳴いて、頼久の体には一層の力が入る。
「頼久・・・・・・」
耳元で空気が振動して、頭の中まで震えるほどの囁き。
「・・・・・・顔を・・・・・・見せてはくれまいか・・・」
顔を覆う手をついばんで、退くように促すが、友雅の思惑とは逆に頼久は顔を背けてしまう。
「・・・・・・っ」
繰り返される指の動きに熱い吐息を吐く唇に、口付けるように
「・・・・・・頼久・・・・・・」
と名を呼んで、顔を覆う指を咥える。